連載記事ウェブアクセシビリティを知ろう

連載8:JIS X 8341-3の背景

渡辺 昌洋
2020年9月23日

今回は、JIS X 8341-3全般に関して説明します。英語の略語が並びますがご辛抱願います。JIS(Japanese Industrial Standards)は産業標準化法に基づく日本産業規格です。以前は、工業標準化法に基づく日本工業規格と呼ばれていましたが、令和元年7月1日の法改正により名前が変わりました。規格の名前は「高齢者・障害者等配慮設計指針−情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス−第3部:ウェブコンテンツ」です。最新のJIS X 8341-3は2016年版ですが、これまでの歴史を簡単に振り返ってみましょう。

ウェブアクセシビリティの最初の規格は、W3C(World Wide Web Consortium)のWCAG 1.0(Web Content Accessibility Guidelines 1.0)で、1999年にW3C勧告となっています。一方、日本では2004年に初のウェブアクセシビリティの規格JIS X 8341-3が制定されています。2004年版JIS X 8341-3はWCAG 1.0と同じ内容ではありません。W3Cでは、2008年にWCAG 2.0が勧告されました。WCAG 2.0は全世界で使われるようになりました。日本でもWCAG 2.0とのハーモナイズを意図して、WCAG 2.0の内容を取り込んだJIS X 8341-3:2010を制定しました。

その後、2012年にWCAG 2.0がISO/IEC 40500として採用されました。ISO規格は国際標準化機構(International Organization for Standardization)によって定められた規格です。また、IEC規格は国際電気標準会議(International Electrotechnical Commission)によって定められた規格です。JISは国際規格と合わせることが求められています。JIS X 8341-3を見ると、JIS X 8341-3:2016(ISO/IEC 40500:2012)と書かれており、ISO/IEC 40500と同じ内容であることが明記されています。さて、そのISO/IEC 40500ですが、WCAG 2.0に前書きなどを追加した形になっており、中身はWCAG 2.0そのままです。そのため、ISO/IEC 40500を日本語訳するということは、WCAG 2.0を日本語訳するということになります。そのため、JISの中にWCAG 2.0という文言が登場してくることとなりました。国際規格と協調するためには、文意を変えないように正確に翻訳することが基本なのです。

このような背景を踏まえて、JIS X 8341-3を解説していこうと思います。JIS X 8341-3は、WCAG 2.0そのままであると考えると、WCAG 2.0の理解しづらさをそのまま受け継いでいるといえます。W3Cでは、WCAG 2.0を理解するために、How to meet WCAG 2.0、Understanding WCAG 2.0、Techniques for WCAG 2.0といった技術文書を同時に公開しています。日本ではウェブアクセシビリティ基盤委員会が日本語訳を公開していますので、こちらも参考にしてください。これからの解説でも、Understanding WCAG 2.0を適宜紹介していきたいと思います。

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