連載記事ウェブアクセシビリティを知ろう

連載13:ウェブアクセシビリティのポイント

渡辺 隆行(JWAC理事長,東京女子大学)
2021年3月23日

遅くなりましたが,2020年8月24日のセミナーでお話したことの一部を文章にまとめます.

JIS Z8521:2020ではアクセシビリティを「製品,システム,サービス,環境及び施設が,特定の利用状況において特定の目標を達成するために,ユーザの多様なニーズ,特性及び能力で使える度合い」と定義しています.ユーザビリティの定義「特定のユーザが特定の利用状況において,システム,製品又はサービスを利用する際に,効果,効率及び満足を伴って特定の目標を達成する度合い」と比較すると,アクセシビリティではユーザとして多様なニーズ・特性及び能力を持った人を対象としていることがわかると思います.この中に障害者が含まれますが,アクセシビリティは障害者よりも幅広いユーザ層を想定していることに注意が必要です.ウェブアクセシビリティの場合,「製品,システム,サービス,環境及び施設」はウェブコンテンツ及びウェブを利用する環境を指しています.「使える度合い」とは,そもそも利用できるのか,また,障害を持たないユーザと同様の効果,効率及び満足を達成できるのかを指しています.

障害者というときに「障害」とは何でしょうか? ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health,人間の生活機能と障害の分類法)では人間の生活機能と障害を,「心身機能・身体構造」「活動」「参加」の3つの次元に影響を及ぼす「環境因子」と「個人因子」の相互作用として多面的にとらえています.つまり「障害」は社会(環境)の中で生まれるのです.知覚機能の一つである視覚機能が衰えているだけで障害は生まれません.アクセシビリティに配慮したウェブコンテンツ,ウェブを読み上げることができるスクリーンリーダなどの支援技術,スクリーンリーダを使いこなすことができるユーザの3要素が揃っていれば視覚障害者もウェブを利用できます.学生なら大学が支援技術や支援者を用意してくれるか,社会人なら会社がこれらを用意してくれるかという環境も大事です.ウェブ製作者にとって大事なことは,「心身機能・健康状態」による問題点(機能障害や利用制限)を解消するにはウェブをどう制作するべきかを考えてJIS X 8341-3などを利用すること,障害を持つ利用者でもウェブを利用できて,その活動(学習,社会参加,コミュニケーション,商売,遊びなど)を妨げないようにすることだと思います.

ユーザビリティでもアクセシビリティでも「特定の利用状況」に注意することが大事です.障害者は支援技術を用いていることが多いので,支援技術込みで利用できることが必要です.同じウェブ利用でも,利用状況はユーザによって多様です.全盲の視覚障害者がスクリーンリーダとしてNVDAを用いてウェブを音声利用しているのかもしれないし,全盲の視覚障害者が点字ディスプレイでウェブを利用しているかもしれないし,全盲の視覚障害者が移動しながらスマホのスクリーンリーダでウェブを利用しているのかもしれません.あるいはロービジョンの視覚障害者が画面を拡大してウェブを利用している場合もあれば,手の操作が不自由な障害者がスイッチなどを用いてウェブを利用している場合もあります.そのユーザは急いでウェブを利用しているかもしれないし遊びで利用,あるいは仕事で利用しているのかもしれません.それぞれの利用状況に応じてウェブコンテンツ制作の際に配慮すべきポイントは異なると思います.

「特定の目標」にも注意が必要です.同じウェブを利用していても目標(ゴール)は様々だからです.JWACのサイトを利用するユーザにも,JWACの活動内容を知りたいユーザもいれば入会方法を知りたいユーザもいればどんな人が理事なのかを知りたいユーザもいると思います.また,ゴールにはレベルがあります.「人々が欲しいのは4分の1インチのドリルではない.彼らは4分の1インチの穴が欲しいのだ」(セオドア・レビット:『マーケティング発想法』(ダイヤモンド社))という有名な言葉がありますが,本当のゴールを見つけて,そのゴールの達成を助けるようにウェブを制作することが重要です.

長くなりましたので,今日はここで終わります.

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