連載記事ウェブアクセシビリティを知ろう

連載17:ウェブアクセシビリティ入門:評価の手法

渡辺 隆行(JWAC理事長,東京女子大学)
2021年8月25日

ウェブを制作後,JIS X 8341-3の達成基準を満たしているか,障害者はこのサイトを利用できるのかなどを確認する作業が必要です.今回は,この評価の手法についてお話しします.

2021年3月に改正されたばかりのJIS Z 8530「人間工学-人とシステムとのインタラクション-インタラクティブシステムの人間中心設計」では人間中心設計の活動として,「利用状況の理解及び明示」,「ユーザ要求事項の明示」,「ユーザ要求事項に対応した設計解の作成」,「ユーザ要求事項に対する設計の評価」の4段階が明示されています.JIS X 8341-3は,専門家が「利用状況の理解及び明示」をして「ユーザ要求事項の明示」をまとめたガイドラインと見なすことができます.ウェブ制作者は「ユーザ要求事項に対応した設計解の作成」をしたあと,「ユーザ要求事項に対する設計の評価」をしなければならないわけです.

評価には,ユーザによる評価と専門家による評価があります.ユーザによる評価では,リクルートしたユーザにタスクを与えて,サイト利用時にどのような問題が生じるかを調査したり,タスク達成時間・タスク達成率などの客観指標や満足度・メンタルワークロードなどの主観指標を調査したりします.ウェブアクセシビリティの場合は障害者にサイトを評価してもらうことになりますが,障害にもいろいろな種類があるので全盲の視覚障害者に評価してもらっただけでサイトの問題点がすべてわかるわけではないことに注意が必要です.また,一人に一つのタスクを割り当てて評価してもらうだけでは見つけられない問題点もあるので,複数のユーザに複数のタスクを与えて評価する必要があります.そういう意味で手間がかかる評価手法ですが,リアルな問題を発見できるメリットがあります.

専門家による評価では,チェックリストやガイドラインを用いて評価する手法や,ウェブアクセシビリティやガイドラインをよく理解している評価者が自身の知識や経験則に照らしてヒューリスティック評価する手法があります.JIS X 8341-3を用いた評価は,このガイドラインを用いて評価する手法に当たります.ユーザによる評価と比較すると,専門家さえ用意できれば評価が可能であるという利点がありますが.見落としの可能性があるので,複数の専門家評価をすることで信頼性が高くなります.専門家と言われる人の能力も重要です.

ウェブアクセシビリティの世界でよく実施されているのは評価ツールを用いた評価だと思います.これはユーザによる評価ではないですが,専門家が評価ツールも使って総合的に評価する場合もあれば,ウェブの制作者が評価ツールを使って評価する場合もあると思います.気をつけなければならないのは後者の場合です.評価ツールで発見できるのは問題点の一部に過ぎませんし,人間の判断を仰がなければ判定できない問題点もあります.ですから,評価ツールだけでウェブアクセシビリティを評価することはできません.この点を誤解している制作者が多いと思うので改めて注意を喚起します.

アクセシビリティの評価においては,障害者が評価する場合があると思います.この場合の障害者は,ユーザとして評価する場合もあれば,専門家として評価する場合もあります.専門家として評価する場合,障害者であるだけでは不十分で、自分の障害以外の障害に対する知識や障害によって生じるアクセシビリティ問題に対する知識が必要です.また,たとえば全盲の視覚障害者の場合,晴眼者のウェブ利用も知っていて視覚が使えない場合にどのような情報や機能が欠けるのかを知っている必要もあります.

どの手法がウェブアクセシビリティを正しく評価できるのかを研究した論文も海外では多数出版されています.障害者がユーザ評価をするよりも専門家が評価する方が問題点を正しく発見できたと書いてある論文もありますが,どの手法にも欠点や見落としの可能性があるので,複数の手法を組み合わせてできるだけ多くの問題点に正しく気づくことが重要だと思います.また,アクセシビリティに百点満点(多様なすべての障害者が,すべての利用目的,利用状況で,障害を持たないユーザと同じように利用できる)はないので,現状を正しく把握して改善のプロセスを継続的に回すことも重要です.

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