連載記事ウェブアクセシビリティを知ろう

連載6:情報アクセシビリティの動向:米国

山田 肇
2020年9月23日

米国ではアクセシビリティに関連して二つの政策が展開されている。第一は、公共調達にアクセシビリティ対応を求める政策で、根拠はRehabilitation Actである。同法508条に従ってアクセシビリティ基準が作成され、連邦政府等は準拠した情報通信機器・サービスを調達するように規制され、規制に反した場合の処置も設けられている。また、連邦政府等がウェブアクセシビリティに対応する際には、わが国のJIS X 8341-3と同等の基準を用いるようになっている。

第二は、民生用の機器・サービスにアクセシビリティ対応を求める政策である。Communications Act255条は電気通信サービスのアクセシビリティ対応を規定し、基準は508条技術基準と同一である。通信には規模の経済が働くので、国民と連邦政府が同一基準で電気通信を利用すれば、通信の経済的価値を享受できる。

Americans with Disabilities Actを根拠に、民間企業に対してウェブアクセシビリティの改善を求める民事訴訟が多発している。訴訟の過程ではJIS X 8341-3と同等の基準が利用される例が多い。

歌手ビヨンセの公式サイトが訴えられた訴訟では、原告は次のように主張した。「視覚障害者と健常者の別なく与えられる唯一のエンタテインメントは、音楽を聴くことです。原告はビヨンセのコンサートに行き、彼女の音楽を生で聴くことを夢見て、Beyonce.comにアクセスしました。しかし、彼女はサイトが提供するグッズやサービスにたどり着くまでに無数のバリアに阻まれたのです。」

同様に、ハーバード大学は、字幕がないのでオンライン教材その他のビデオ教材を利用できないと聴覚障害者に訴えられた。大学側は、全てのビデオ教材に字幕を付与する義務はないと反論したが、2019年11月に大学は敗訴した。

この二例が示すように、米国では基本的人権と関係する形でアクセシビリティが扱われている。

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