連載記事ウェブアクセシビリティを知ろう

連載12:新型感染症と大学のアクセシビリティ

山田 肇
2021年3月10日

大学、短期大学及び高等専門学校で学ぶ障害のある学生数は増加の傾向にある。日本学生支援機構の2019年度調査外部サイトを別ウインドウで開きますによると、障害学生数は37,647人で前年度より3,835人増加したそうだ。

大学の障害学生数33,683名のうち国立は6,415名(在籍率1.09%)だが、公立は1,799名(1.16%)、私立は25,469名(1.12%)である。在席率はほぼ等しく、国公私立を問わず大学にはアクセシビリティ対応が求められている。

大学は障害のある学生への対応を進めている。各校は「障害学生支援室」等を設け、点訳・墨訳、ノートテイキング、教材のテキストデータ化・拡大、リーディングサービス、手話通訳などを提供している。支援室には有償・無償の支援スタッフとして学生が登録し、支援を実施する仕組みが作られている。これは障害のある学生とない学生の相互理解に役立っている。

しかし、新型感染症の蔓延によってオンライン教育が進む中で、従来型のアクセシビリティ対応では不十分であることも明らかになった。

全日本ろうあ連盟はろう学生の意見をまとめている。外部サイトを別ウインドウで開きます文字起こし資料をもらったが今どこを読んでいるかわからないといった「支援者が傍にいない」課題、講義画面・講義資料画面のほかに支援者との連絡用画面もある「画面を注視する時間が長く、疲労が大きい」課題、口型(くちがた)の読み取りがほぼ困難という「対面講義と比べ、音声情報の獲得が困難」という課題、それに「機関や学科の整備状況による支援の差が大きい」という課題が指摘されている。

障害のある学生を含めて、すべての学生が等しく教育を受けられるように、オンライン講義のアクセシビリティには改善が求められる。

その前に、大学等サイトにはウェブアクセシビリティの課題がある。たとえば、その大学がどのように障害のある学生に対応しているかは入学以前に知る必要があり、公式サイトが情報源になる。そのサイトがアクセシビリティに対応していないと情報が得られない。

総務省は2016年に「みんなの公共サイト運用ガイドライン」外部サイトを別ウインドウで開きますを定め、公共機関にウェブアクセシビリティ準拠を求めた。国立大学は公共機関だからガイドラインが適用される。

東京大学サイトにはガイドラインが求める「ウェブアクセシビリティ方針」が掲載されているが、北海道大学にはない。総務省提供の機械診断ツールmiCheckerで診断すると、東京大学は弱視対応について「問題あり」0だが、北海道大学は「問題あり」194、その大半は「固定サイズのフォントの使用」である。

東北大学は学部ごとにサイトを構築しているために、アクセシビリティに統一的な対応がなされていない。京都大学のスマホサイトでは、カリキュラムが健常者でも読み取るがむずかしい表形式で提示されている。

大学サイトの規模は相対的には小さい。

鳥栖市の公式ホームページリニューアル業務がホームページ利用者の利便性向上を目的として3,300ページを対象に実施されたが、付随してホームページ全体で「適合レベルAA」が要求された。この業務の提案上限額は15,169,000円(消費税を含む)であった。

これを参考にすれば、大学サイトの利便性向上と「適合レベルAA」準拠にかかる費用は1千万円以下と想定できる。

国立大学だけ例示したが、公私立大学も同様で、ウェブアクセシビリティの改善に急ぎ乗り出していただきたい。

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