連載記事ウェブアクセシビリティを知ろう
連載33:ウェブのアクセシビリティとユーザビリティ
山田 肇
2025年4月8日
ウェブアクセシビリティの技術基準を規定するJIS X 8341-3は、国際標準ISO/IEC 40500:2012をそのまま日本語化した国内標準である。40500の後ろにある2012は作成年で、すでに10年以上が経過している。だからJIS X 8341-3にはスマートフォンでの閲覧には対応していない。
ISO/IEC 40500の改正作業が国際の場で最終段階に差し掛かりつつある。本年中に完成すれば、JIS X 8341-3も来年には改正されるだろう。現在のウェブ利用形態に対応した技術基準に生まれ変わることを歓迎する。
ISO/IEC 40500改正版には、W3C/WAIのウェブコンテンツアクセシビリティガイドライン(WCAG)2.2がそのまま採用される予定である。WCAG 2.2翻訳版がすでにウェブアクセシビリティ基盤委員会から公開されているので、今のうちに読んでおくようにお勧めする。
WCAG 2.2には、スマートフォン対応以外にも、今までにない技術基準が書き込まれている。その一つが、「達成基準 3.1.5 読解レベル」である。日本語訳は次の通り。
固有名詞や題名を取り除いた状態で、テキストが前期中等教育レベルを超えた読解力を必要とする場合は、補足コンテンツ又は前期中等教育レベルを超えた読解力を必要としない版が利用できる。
前期中等教育レベル、つまり中学卒業レベルのコンテンツとは何か。手掛かりは、プレインランゲージに関する国際標準ISO 24495-1:2023にある。
米国はじめ世界各国で、一般市民に提供する行政文書はプレインランゲージ原則に沿って記載するという法律や規則が制定・施行されてきた。たとえば、米国には連邦法Plain Writing Actがある。これら法律・規則を集大成して、プレインランゲージ原則を国際標準化したのが、ISO 24495-1である。
プレインランゲージ国際標準は最初に読者を規定するように求める。一般市民なのか、それとも専門家向けなのか。そして読者のために文書を作成する、それが国際標準の掲げる原則中の原則である。米国などでは、一般市民向けの行政文書は中学卒業レベルの読者を対象としており、それがWCAC 2.2に反映された。
プレインランゲージ国際標準はそのうえで、①読者は必要な情報を入手できる(関連性がある)、②読者は必要な情報を簡単に見つけられる(探しやすさ)、③読者は見つけた情報を簡単に理解できる(理解しやすさ)、④読者はその情報を使いやすい(使いやすさ)の四基本原則を掲げている。
人間工学の国際標準ISO 9241-11:2018ではユーザビリティが次のように定義されている。
ある製品を、特定の利用者が、特定の目的を達成しようとするにあたって、特定の状況で、いかに効果的に、効率的に、満足できるように使えるかの度合い
「効果的に、効率的に、満足できるように使えるか」を文書に適用すれば、読者自らが求める情報が探しやすく、理解しやすく、使いやすいになる。プレインランゲージ国際標準は文書のユーザビリティ基準とみなせる。
こうしてウェブサイトについて、アクセシビリティとユーザビリティが同時に求められる時が目の前に迫っている。
