連載記事ウェブアクセシビリティを知ろう

連載28:障害者権利条約に基づく定期審査の衝撃(2)

山田 肇
2023年1月10日

障害者権利条約は、条約の義務の履行状況を定期的に報告するように締結国に求めている。わが国は2022年に最初の報告を提出し、審査報告は9月9日に国際連合障害者権利委員会サイトで公表外部サイトを別ウインドウで開きますされた。

連載第1回に続いて今回も、情報アクセシビリティに関係する指摘事項について解説する。

障害者権利条約「第二十一条 表現及び意見の自由並びに情報の利用の機会)」は、情報アクセシビリティに強く関係する条文である。権利委員会は以下の点について改善を求めた。

  • ウェブサイト、テレビ、メディアサービス等について「法的拘束力のある基準」を制定する
  • 点字、盲ろう者への通訳、平易な言語表記、音声解説、字幕付与などの技術開発と利用を促進するように資金を割り当てる
  • 日本手話を国家レベルの公用語として法律で認める

不当な差別的取扱いを禁止する障害者差別解消法が制定されて9年が経つが、ユニバーサルデザインに基づく共生デジタル社会が近づいている様子は見えない。多くのハザードマップは画像PDFだけで、危険な地域を示すテキストによる説明はついていない。これは、命にかかわる差別的取扱いである。

障害者基本法をはじめ平等・共生を謳う法律群が制定されてきたが、現実の社会経済では対応が進まない。共生への歩みを確実にする手段の一つが、権利委員会が求めた法的拘束力のある基準である。

米国では、連邦法『障害を持つアメリカ人法(ADA)』と『リハビリテーション法』によって、公共機関にも事業者にもアクセシビリティ対応が義務付けられている。ADAに基づいて電話リレーサービスの実施が公的に義務化され、いつでも誰とでも電話できる環境が実現している。ディズニー公式サイトの不備について2011年にADAを根拠に集団訴訟が提起され、同社は改善を余儀なくされた。障害を持つ人々が他の人々と同様に利用できる情報通信機器・サービスの調達がリハビリテーション法に基づく連邦政府の義務である。リハビリテーション法の下に法的拘束力のある基準が定められている。

欧州では2019年に『欧州アクセシビリティ法』が成立したが、欧州アクセシビリティ法が定める基準に沿わない情報通信機器・サービスを製造・輸入・販売した事業者に罰則を科す法律の制定が、欧州連合加盟各国で進められている。

共生デジタル社会を実現するために、ウェブサイト、テレビ、メディアサービス等の情報アクセシビリティに法的拘束力を持たせる改正に進む必要がある。

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